「慢性炎症性腸症と診断された」
「食事を変えるだけで治療できるの?」
「一生薬を飲み続けなければいけないの?」
犬の慢性炎症性腸症(CIE)は、慢性的な下痢や嘔吐を引き起こす病気です。
病気の治療には薬が必要なイメージですが、この病気の場合すべての犬が薬を必要とするわけではありません。
近年の治療方針としてはまず食事療法を行い、その反応を評価した上で他の治療を検討することが推奨されています。
今回は犬の慢性炎症性腸症の治療について解説します。
(以前は人間の病気と同じ「炎症性腸疾患(IBD)」呼ばれたり、「慢性腸症(CE)」と呼ばれていましたが、近年では慢性炎症性腸症という名称が用いられています。)

【関連コラム】
第1回 犬の下痢が治らない|犬の慢性炎症性腸症とは?慢性的な下痢の原因と受診の目安
第2回 犬の慢性腸症=慢性炎症性腸症(CIE)とは?下痢や嘔吐が続く犬で疑われる病気
第3回 犬の慢性腸症=慢性炎症性腸症はどう診断する?内視鏡検査は必要?
第4回 犬の慢性腸症=慢性炎症性腸症の治療|食事療法だけで良くなる?薬は必要?
慢性炎症性腸症の治療目標・方針
慢性炎症性腸症は、完全に治すことが難しく治療をやめると再発してまう場合もあります。
できるだけ良好な生活の質を維持するために、副作用を抑えつつ、治療により症状を管理していくことが目標になります。
また、この病気は「治療した上での反応性から病名がつけられるもの」、順序だてて治療を行っていくことになります。

この図のように、治療の反応性によって大きく4つに病名が分類されていて、一番下の「食事」で改善する子が多いです。
このことから、治療はこの図の下から順番に進めていくことになります。
一つ目の選択肢は食事療法
現在のガイドラインでは、食事の変更だけで症状が改善する犬が多いため、優先すべき治療として食事療法を行うことが推奨されています。
ただ、どのフードがその子に合うかは分からないので、次のようなフードをいくつか試していくことになります。
加水分解食
タンパク質を細かく分解し、免疫反応が起こりにくいよう設計されたフードです。
食物への免疫の異常な反応が関与している症例では効果が期待できます。
高繊維食
腸内環境の改善を目的として、特定の食物繊維を強化したフードです。
新奇タンパク食
これまで食べたことのないタンパク質を使用したフードです。
特定の食材に対する過敏反応が疑われる場合に用いられます。
低脂肪食
食事中の脂肪分が多いと便が柔らかくなってしまう子には、脂肪分を制限したフードを与えることで症状が改善します。
食事療法中の注意点
基本的には最低2週間一つのフードを継続して効果を判定します。
その期間で療法食の効果を正しく評価するためには、「フード以外の物を与えない」ことが重要になります。
おやつや人の食べ物なども与えないようにしてください。
少量のおやつでも効果に影響して、改善しないことがあります。
腸内環境を整える治療
近年では、慢性炎症性腸症と腸内細菌叢(腸内フローラ)の関係が注目されています。
- プロバイオティクス:善玉菌を摂取すること
- プレバイオティクス:善玉菌のエサになる成分を摂取すること
- 食物繊維
などを活用しながら腸内環境の改善を目指すことがあります。
症例によっては食事療法と併用することで症状の改善が期待できます。
薬による治療が必要になることも
食事療法だけで十分な改善が得られない場合には、免疫抑制薬による治療を検討します。
プレドニゾロン
腸の炎症を抑えるために使用される代表的な薬で、いわゆる「ステロイド」の一種です。
慢性炎症性腸症では高い効果が期待できるため、薬としては最初に使用することが多いです。
短期的には次のような副作用が出ることがありますが、薬を減量できれば徐々に改善していきます。
- 多飲多尿
- 食欲増加 など
また、長期的には肝臓系や内分泌系(ホルモン系)への副作用がみられることがあるため注意しながら使用していくことになります。
ブデソニド
これもステロイドの一種ですが、全身への影響が比較的少ないと考えられています。
症例によってはプレドニゾロンの代替として使用されます。
その他の免疫抑制薬
重症例や上記のステロイドだけで十分な改善が得られない場合には、クロラムブシル(抗がん剤の一種)やシクロスポリンと言った免疫抑制剤を使用することがあります。
抗菌薬は必ず必要?
以前は慢性下痢に対して抗菌薬が使用されることがありましたが、近年では基本的に抗菌薬の使用は避けるべきとされています。
これには次のような理由があります。
- 薬剤耐性菌の問題
- 長期的な有効性を示す十分な証拠が少ないこと
また、抗菌薬を使わなくても食事療法や腸内環境を調整することで改善する子が多いことも分かってきています。
ただ、絶対に「不必要・無効」と言う訳ではなく、必要性を慎重に判断したうえで使用されます。
ビタミンの補充
慢性炎症性腸症では、小腸の吸収障害によって体内のビタミンが不足することがあります。
そのため不足が認められた場合には補充療法を行います。
治療期間はどのくらい?
治療期間は症例によって大きく異なります。
1~2週間で安定する子もいれば、長期的な管理が必要になる子もいます。
症状が改善した後も定期的に体重や栄養状態を確認しながら治療内容を調整していきます。
慢性炎症性腸症は適切な治療で改善が期待できます
犬の慢性炎症性腸症は長期的な管理が必要になる病気ですが、適切な治療によって良好な生活を維持できる犬も多くいます。
近年は食事療法を中心とした治療が重視されており、必ずしも薬が必要になるわけではありません。
すぐに改善しない場合も多い病気ですが、順序だてて一緒に治療方針を相談していきましょう。
愛犬の下痢や嘔吐が続いている場合は、お気軽に当院までご相談ください。
このコラムが飼い主のみなさんの参考になれば幸いです。
「こんなこと聞いてもいいのかな」と思うことでも尋ねてもらえれば、病院として何かお手伝いができるかもしれません。




