「歯石除去には全身麻酔が必要です」と言われて、不安・心配に思った方もいると思います。
歯の表面の汚れを取るだけなら、「麻酔までは必要ないのでは」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、歯周炎の治療は見えている部分だけをきれいにしてもほとんど意味がないのです。
今回のコラムでは「なぜ全身麻酔が必要なのか」、「どのような事を行っているのか」を解説します。


【歯周炎コラム】
第1回 犬の歯周炎|口がにおう・歯石がついていることに気づいたら
第2回 猫の歯周炎|よだれ・口臭・食べにくそうは危険なサイン
第3回 犬と猫の歯周炎・歯石|なぜ起こってしまうの?原因をわかりやすく解説
第4回 犬と猫の歯周炎治療|全身麻酔でどんな処置をしているの?処置内容を解説
第5回 犬と猫の歯周炎予防|歯みがきができない子はどうすればいい?
歯石除去に麻酔が必要な理由
歯周炎の原因は、歯の表面に見えている「歯石」ではなく、「歯周ポケット」にあります。
表面に見えている歯石だけを取り除いても歯周ポケットにたまった細菌や歯石を取り除かなければ炎症は改善しません。
この処置は細かく丁寧に行う必要があり、また多少チクチクとした痛みもあるので、人であればじっとしてもらえればいいのですが、動物の場合は動かないように全身麻酔が必要になります。
無麻酔での歯石除去との決定的な違い
無麻酔で行えるのは、歯の表面の歯石除去だけです。
一見きれいになり、口臭もいくらかマシになります。しかし、歯周ポケットの汚れは残ったままのため、見た目は改善しても歯周炎そのものは進行し続けてしまいます。
逆に、見た目に歯石が少ないことで歯科処置のタイミングが遅くなってしまったり、無麻酔での歯石除去の際に歯の表面に細かい傷がつくことでより汚れやすくなってしまい、デメリットも少なくないと感じます。
歯周炎の治療として意味があるのは、歯周ポケットの徹底的な洗浄と処置です。
全身麻酔下で行う処置の内容
全身麻酔下では、次のような処置を行います。
- 口内レントゲン:目に見えない歯肉の中、歯根部や歯を支える骨(歯槽骨)の状態を確認します。
- 歯石の除去
- 歯周ポケットの洗浄
- 必要に応じて抜歯
- 歯の表面を滑らかに磨く処置(ポリッシング) :処置後に汚れが付着しにくくなります
これらの処置により、炎症の原因を根本から取り除きます。

歯根部は白い歯槽骨に囲まれています

(歯根の周りの黒く抜けて見える部分)
麻酔リスクと麻酔前の全身検査
多くの人が心配になる点だと思いますが、もちろん、全身麻酔ではリスクがゼロではありません。
そのため、事前に血液検査や身体チェックを行い、安全に配慮したうえで実施します。
「全身麻酔が怖い」と感じることは当然だと思いますし、もちろん獣医師としてもむやみに全身麻酔をかけたくはありません。
ですが、麻酔前に全身のチェックを行ったうえで実施する全身麻酔はそれほど危険な処置ではありません。(状況にもよりますが、リスクが高い場合には獣医師としても無理に全身麻酔は実施せず、処置を見送ることもあます。)
歯周炎を放置して口腔内や全身への障害が生じることと比較すると、適切に管理された全身麻酔下での治療はそれほどリスクの大きいものではありません。
治療後の変化と注意点
治療後は、口臭の改善やフードの食べ方の変化に気づくことが多くあります。
抜歯直後は痛みのためによだれが出たりすることもありますが、1~2日経過すると、
「フードが食べやすくなった」、「処置前より食欲が増えた」と感じる飼い主さんも多いです。
犬や猫は人に比べると痛みに強く、早期に抜歯による痛みを感じなくなるようです。
歯周炎が重度な子の場合はほぼ全ての歯を抜歯することもありますが、ぐらつきや炎症の強い歯を放置する方が痛みや違和感などが持続して「生活の質」を落としてしまうことが多いです。
「歯がなくても食べられるの?」と思うかもしれないですが、そもそも犬の歯はお肉を細かく引き裂くためにあるので、もともと小さく作られたフードは歯がなくても問題なく食べることができます。
歯がなくなることで口からこぼしやすくなることもありますが、慣れてくると上手に食べられるようになる子が多いです。
このように、歯石除去を適切に実施することで口内環境は改善させられるのですが、歯周炎は再発してしまう病気のため、治療後のデンタルケアと定期チェックがとても重要です。
「歯石除去のため」ではなく、「歯周炎を治療するため」の全身麻酔であることをご理解いただけたでしょうか。
この違いを知っていただくことが、正しい治療への第一歩になります。
全身麻酔はリスクのある処置ではありますが、麻酔前にはできる限り安全に全身麻酔を行えることを確認していること、
その上での口腔処置には大きなメリットがあることがお伝えしたいことです。
このコラムが飼い主のみなさんの参考になれば幸いです。
不安な点、心配な点があれば気軽にご連絡・ご相談ください。
「こんなこと聞いてもいいのかな」と思うことでも尋ねてもらえれば、病院として何かお手伝いができるかもしれません。





